「社会を支える人材を国が積極支援を」――日系人としての想いを朝日新聞のインタビュー記事で語るオチャンテさん

「社会を支える人材を国が積極支援を」――日系人としての想いを朝日新聞のインタビュー記事で語るオチャンテさん                                                                                                                                                                                                          

朝日新聞は4月16日の朝刊のオピニオンの欄で、日系ペルー人4世のオチャンテ・村井・ロサ・メルセデスさんのインタビュー記事を掲載した。オチャンテさんは2018年2月3日「にほんごぷらっと」の当欄(時代のことば)に「『日系4世』そして、『移民第1.5世代』として生きて」と題した一文を寄稿してくれた。大学教員となって外国にルーツのある子供たちの教育を研究するオチャンテさん。今回のインタビュー記事でも、「『とにかく頑張って高校を卒業するように』と、親にも本人にもいつも伝えています」と教育の重要性を訴える。

オチャンテさんはデカセギで日本に渡航していた両親の呼び寄せで来日。三重県伊賀市の中学校に3年に編入した時は「日本語ゼロ」だった。国際教室で日本語を勉強し、音楽、体育、英語の授業の時だけクラスに戻った。中学校にはわずか2カ月しか通わなかったが、定時制高校の試験を受けて合格。がんばり屋のオチャンテさんは、その後、大学に進学して母校の中学校で外国にルーツのある子供の支援をしたことで教育の重要性を痛感し、教育者になることを決意し大学院に進んだ。

定時制高校の時代をインタビュー記事でこう振り返る。「外国出身や60歳を過ぎた生徒もいて、頑張ろうという雰囲気がありました。朝8時からカメラの部品工場で働き、夕方5時半から授業でした。熱心な先生が毎日その30分前から日本語を特訓してくださいました。夜9時の学校を終え、自転車で40分かけて家に帰ると、寝るだけです。4年間、そんな生活を続けて卒業しました」。「熱心な先生が毎日その30分前から日本語を特訓してくださいました。夜9時に学校を終え、自転車で40分かけて家に帰ると、寝るだけです。4年間、そんな生活を続けて卒業しました」

そう語るオチャンテさんだが、「私が大学院まで進めたのは、偶然の積み重ねです」とあくまで謙虚だ。「授業時間以外に日本語を教えてくれた先生、生活の相談に応じてくれたスペイン語の話せる日本人ボランティアの方。たまたま、いい人たちに巡りあえたからです」と言うのだ。外国人の子供が成長する過程では、日本人のサポートが大きな支えになるのも事実だろう。

1989年の入管法改正によって「定住者」という在留資格ができたことで、ブラジル、ペルーなど南米から日系が相次ぎデカセギとして来日するようになった。オチャンテさんのような移民第二世代も20代から30代を迎える。日本生まれの日系人も増えているが、マイノリティの子供はいじめを対象になるなど様々な課題を抱えている。高校の進学率はまだ低い。進学しても中退してしまう生徒も少なくない。

「言葉がわからず勉強についていけないのです。親が病気になり、学費が払えないこともあります。中退すると居場所がなくなり、悪いことをする若者も出てきます。就職しても不安定な職しかありません。『とにかく頑張って高校を卒業するように』と、親にも本人にも伝えています」と話すオチャンテさん。自身が大学の教壇に立つようになり、「教え子は小中学校の教員を目指しています。これからは全国どこの学校にも、外国にルーツを持つ子供がいる時代になります。私の経験が生かされ、どんな子供にとっても居心地のいい教室があちこちにできるとうれしいです」と語る。

2018年12月の入管法の改正で外国人の受け入れ枠が拡大され、生活者としての外国人がさらに増える見通しだ。その受け入れに関してオチャンテさんは「もはや民間任せの支援や人々の善意だけでは限界です。外国人は『お荷物』ではなく社会を支える人材です。国が十分な予算を確保し積極的に生活支援に乗り出して欲しい」と期待感を示す。

オチャンテさんは昨年2月に「にほんごぷらっと」に寄稿してくれた時は、奈良学園大学人間教育学部人間教育学科助教だったが、その後、桃山学院教育大学講師に。順調にステップアップしているようだ。

オチャンテさんが「にほんごぷらっと」に投稿してくれた原稿は、以下のURLで読むことができます。

http://www.nihongoplat.org/author/rosa-mercedes-ochante-muray/

石原 進

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

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12:00 AM 留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
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日振協による文部科学省委託の初任研修が今年も始まります。 告示校で10年程度専任で経験されている方対象です。 OJTで実際の運営に関わりながら研修運営を肌で学んでいただけます。 研修詳細は協会ホームページより、チラシと募集案内をダウンロードしてご確認ください。   「日振協 留学生対象の日本語教師初任者研修」は「オンライン映像講義」「(オンライン)集合研修」「自己研修(自律的学習)」の三位一体の編成により、①自律的・持続的な成長力 ②対話力 ③専門性という3つの資質・能力の育成を目指すもので、忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の教育機関に所属している受講生への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 2020年度から、この初任者研修と並行して、「育成研修」を併せて実施しています。「育成研修」は初任者研修のサポートを行いながら研修の企画や実施方法を学び、将来全国各地で初任者研修の実施担当者として活躍していただく人材を育成する研修です。具体的には以下のことを目指しています。 ①初任者教員の協働的かつ自律的な学びを支援し、21世紀に活躍できる日本語教師としての資質・能力及びICT活用能力の獲得へと導く ②研修委員に必要な経験と能力を身につける 研修は、フルオンライン(zoom使用)で実施いたします。学内で初任者の指導を任されている方、地方在住でなかなか研修機会に恵まれない方など全国各地からご参加いただきたく存じます。修了生は今後実施委員になっていただく可能性もございます。どうぞ奮ってご応募ください。 チラシ(PDF 裏表2頁/1枚)
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留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
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本研修のカリキュラムは文化審議会国語分科会の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」に基づいており、初任者が体系的・計画的に日本語指導を行うための実践的能力として (1)自律的・持続的な成長力 (2)対話力 (3)専門性 の3つの資質・能力の養成を狙いとした90単位時間のプログラムです。忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の日本語教育機関の新任の先生方への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 研修形態はフルオンラインです。昨年度同様、今後日本語教師にますます求められるであろうICT活用能力(オンライン授業やハイブリッド授業の実践等)に重点を置いた研修を行います。 つきましては、ぜひ多数の日本語教師初任者の方にご参加いただきたく下記のとおりご案内いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。 チラシ(PDF 表裏2頁/1枚)
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凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター
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令和6年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
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