2021年をオンライン日本語教育の元年に

2021年をオンライン日本語教育の元年に

コロナ禍による暗雲が地球を覆った2020年が幕を閉じ、2011年の新しい年を迎えました。みなささま、明けましておめでとうございます。新たな年がコロナ禍を克服し、将来への展望を見いだせる1年であることを祈念しています。

2020は2月に横浜入港したダイヤモンドプリンセス号で新型コロナウイルスの感染者が見つかって以来、日本全国に感染が拡大しました。米国やブラジル、欧州各国に比べれば、感染者数や死亡者数が少ないとはいえ、第3波の感染の拡大で医療崩壊が危惧されています。その一方で、欧米ではワクチンの接種が始まりました。効果のある治療薬の活用も進んでいるようです。いずれはコロナ禍の拡大を抑え込む日が訪れるはずです。

ところで、コロナ禍は日本語教育にどのような影響を与えたのでしょうか。出入国が規制されて航空便が相次いでストップし、外国人観光客ばかりでなく、外国人留学生や技能実習生などが長期わたって来日ができなくなりました。「三蜜」を回避するため大学などが休校になり、留学生が学ぶ日本語学校の授業も一時開けなくなりました。

日本語教育推進法が2019年に施行され、翌2020年6月に政府は日本語教育を推進するための「基本的な方針」を閣議で決定しました。施策を実施するための方向が示されましたが、それに待ったをかけるようにコロナが猛威をふるい、感染が拡大したわけです。日本語学校が大きな打撃を受けただけでなく、外国人労働者の来日を待ち望んでいた中小企業の中には、操業の縮小するケースも出たようです。

そうした中で日本語教育に関する「光明」は、インターネットを活用したオンライン授業ではないでしょうか。大学だけでなく日本語学校でもオンライン授業が行われました。留学生の出欠などを厳しくチェックしている入管庁が、コロナの感染拡大防止のため、オンライン授業を容認したわけです。役所や民間企業でテレワークが普及し、オンラインによる会議も急増しました。日本語教育のオンライン授業は自然の成り行きでしょう。

オンライン授業は、人の移動を伴わずに国境を越えて実施できます。一時帰国した留学生が母国にいながら日本で行われた授業をオンラインで受けたこともありました。だとしたら、ポストコロナの時代の留学生政策にオンライン授業を組み込むことが可能ではないか。菅政権はデジタル庁を近く創設します。留学生の日本語教育にオンラインを活用することは十分に考えられます。

コロナ禍が収束すれば、留学生も以前のように増えるはずです。しかし、より優秀な若者を留学生として日本に受け入れるには、新たな仕組みを作る必要があるのではないでしょうか。例えば日本語学校の一部の授業はオンラインを使って海外で行い、それを単位として認定する制度を設けます。その後の試験を通じて学力を見定めたうえで日本への留学を許可します。オンライン教育はグローバルな広がりを見せるはずです。各国でそんな動きがでるかもしれません。日本も後れを取るわけにはいかないでしょう。

オンラインを通じた日本語教育をすれば、日本語学校は「海外での定員」を増やすことが可能になります。そうなれば、日本語学校は安定した学校経営ができるようになるはずです。対面授業にオンライン授業を加えることで教育の質の向上を図れる可能性もあります。海外進出がコスト的に困難な日本語学校ですが、オンラインを活用することで「進出」が可能になると考えられます。

「にほんごぷらっと」は、「海外の日本語人口1億人」を提唱しています。日本語が通じる国や地域が海外に広がれば、国際社会に日本の魅力が伝わります。政府がオンラインを通じた言語戦略を進めることは、時代にかなった政策と言えるでしょう。中国や韓国は言語政策では先行していますが、日本語教育は魅力的な日本文化の「ソフトパワー」を内包しています。コロナ禍という災いから活用されるようになったオンライン教育。そこには新たな時代の日本語教育の大きなポテンシャルが潜んでいるように見えます。

にほんごぷらっと編集長 石原 進

 

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

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イベントカレンダー

6月
12
12:00 AM 留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
6月 12 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
日振協による文部科学省委託の初任研修が今年も始まります。 告示校で10年程度専任で経験されている方対象です。 OJTで実際の運営に関わりながら研修運営を肌で学んでいただけます。 研修詳細は協会ホームページより、チラシと募集案内をダウンロードしてご確認ください。   「日振協 留学生対象の日本語教師初任者研修」は「オンライン映像講義」「(オンライン)集合研修」「自己研修(自律的学習)」の三位一体の編成により、①自律的・持続的な成長力 ②対話力 ③専門性という3つの資質・能力の育成を目指すもので、忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の教育機関に所属している受講生への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 2020年度から、この初任者研修と並行して、「育成研修」を併せて実施しています。「育成研修」は初任者研修のサポートを行いながら研修の企画や実施方法を学び、将来全国各地で初任者研修の実施担当者として活躍していただく人材を育成する研修です。具体的には以下のことを目指しています。 ①初任者教員の協働的かつ自律的な学びを支援し、21世紀に活躍できる日本語教師としての資質・能力及びICT活用能力の獲得へと導く ②研修委員に必要な経験と能力を身につける 研修は、フルオンライン(zoom使用)で実施いたします。学内で初任者の指導を任されている方、地方在住でなかなか研修機会に恵まれない方など全国各地からご参加いただきたく存じます。修了生は今後実施委員になっていただく可能性もございます。どうぞ奮ってご応募ください。 チラシ(PDF 裏表2頁/1枚)
6月
29
12:00 AM 留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
6月 29 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
本研修のカリキュラムは文化審議会国語分科会の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」に基づいており、初任者が体系的・計画的に日本語指導を行うための実践的能力として (1)自律的・持続的な成長力 (2)対話力 (3)専門性 の3つの資質・能力の養成を狙いとした90単位時間のプログラムです。忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の日本語教育機関の新任の先生方への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 研修形態はフルオンラインです。昨年度同様、今後日本語教師にますます求められるであろうICT活用能力(オンライン授業やハイブリッド授業の実践等)に重点を置いた研修を行います。 つきましては、ぜひ多数の日本語教師初任者の方にご参加いただきたく下記のとおりご案内いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。 チラシ(PDF 表裏2頁/1枚)
7月
27
1:30 PM 凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター
凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター
7月 27 @ 1:30 PM – 4:00 PM
凡人社日本語サロン研修会 『できる日本語』ブラッシュアップ講座 ~課題に向き合い、仲間とともに,より良い実践をめざしませんか~   [日時・会場・定員] 全日:13:30~16:00(受付開始 13:00) ※各会場先着順、定員になり次第締め切ります     【日付】2024/7/27 (土) 【会場】大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター(大阪市中央区久太郎町3-5-19) 【定員】80名   【日付】2024/9/1 (日) 【会場】福岡会場博多バスターミナル(福岡市博多区博多中央街2) 【定員】60名   [対 象] 主に日本語学校の教師・関係者、日本語教育ボランティア、日本語教育に関心のある方   [参加費] 無料 ※要予約   [講 師] 嶋田 和子 先生(『できる日本語』監修) 他『できる日本語』著者の先生方   [内 容] 『できる日本語』の輪が広がり続け、「実践について学べる場がほしい」という声がたくさん寄せられています。 そこで、現在『できる日本語』を使っていらっしゃる方々に向けて、「ブラッシュアップ講座」を開くこととしました。 当日は、具体例を挙げながらより良い実践について考えていきます。 事前にお寄せいただいた質問の中から共通の課題を取り上げ、ご一緒に解決に向けて考えていきます。 また、すでにあちらこちらで【できる日本語ネットワーク】が生まれていますが、今回の対面講座で、さらに新たな輪が生まれることをめざします。   [お問い合わせ・お申込み] 主催:アルク・凡人社 お問い合わせ・申し込み先(担当:凡人社/坂井)   E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   ※下記お申込みフォームかQRコードかメールにてお申し込みください。 メールでお申し込みの際はタイトルに「日本語サロン研修会(●/●)@●●」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。 ※●/●部分は開催日時と場所をご記入ください。   お申込みフォーム→https://x.gd/3kYVu
8月
5
10:00 AM 令和6年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
令和6年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
8月 5 @ 10:00 AM – 8月 6 @ 4:30 PM
令和6年度日本語学校教育研究大会 1 開催日時 本大会 2024年8月5日(月)10:00~16:45 8月6日(火)10:00~16:15 ポストセッション 2024年8月23日(金)19:30~21:00 2 会場 国立オリンピック記念青少年総合センター(東京都渋谷区) 3 参加方法 会場参加:8/5、6は会場参加。後日一部プログラムのアーカイブ配信視聴可。8/23ポストセッションに参加可。 オンライン参加:一部プログラムのライブ配信・後日アーカイブ配信を視聴可。8/23ポストセッションに参加可。 3 応募締切:2024年7月24日(水) 4 詳細、申込方法 https://www.nisshinkyo.org/news/detail.php?id=3163&f=news 「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」施行に伴い、各校においては教育理念や到達目標、評価方法、および教育・学習内容等の見直しを進められていることと存じますが、認定されることがゴールではなく、その先を見据えて、自分たちの教育、および学校全体を見直し、リニューアルすることが大事なのではないでしょうか。 今回は、大会のテーマを「これからの新しい日本語学校の話をしよう」とし、プログラムを企画しました。 日本語学校教育に興味・関心をお持ちの方ならどなたでもご参加いただけます。 皆様のご参加お待ちしております。 【8/5】 講演「日本語教育機関の認定と登録日本語教員について」 (文部科学省総合教育政策局日本語教育課) 講演「技能実習制度及び特定技能制度をめぐる状況と育成就労制度の創設について」 新井靖久(出入国在留管理庁政策課 課長補佐) 講演「『逆向き設計』論に基づくカリキュラム設計-より良い教育評価を目指して」 奥村好美(京都大学 教育学研究科 教育学環専攻教育・人間科学講座准教授) パネルディスカッション 加藤早苗(インターカルト日本語学校 校長)亀田美保(大阪YMCA日本語教育センター センター長) 山本弘子(カイ日本語スクール 代表) 【8/6】 分科会Ⅰ「大学との教育連携を考える~送り出し側と受け入れ側の視点~」 分科会Ⅱ「自ら学び続けるために~学習者と教師のオートノミー~」 義永美央子(大阪大学 国際教育交流センター 教授) 分科会Ⅲ「モジュールボックスを使って学習活動と評価を考えよう!」 自由研究発表・ポスター発表・デモンストレーション・トーキングショップ 協賛団体紹介ブース 【8/23】 ポストセッション(オンライン交流イベント) 〔問い合わせ先〕一般財団法人日本語教育振興協会 事業部 小野寺陽子 TEL:03-6380-6557 FAX:03-6380-6587 E-mail: nisshinkyo2@gmail.com

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