法務省「やさしい日本語有識者会議」に期待すること

吉開 章
やさしい日本語ツーリズム研究会代表
電通ダイバーシティ・ラボ やさしい日本語プロデューサ

2020年2月14日、法務省が「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」に関する有識者会議立ち上げを発表した。

この会議では、国や地方公共団体が外国人向けの広報文書等をやさしい日本語で作成するための「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」の内容が議論されるとしている。日本語教育や多文化共生の学識者や実践者、地方自治体関係者が参加しての議論となる。国政レベルでのガイドラインの策定は初めてのことであり、文化庁と連携した法務省の動きに期待を寄せたい。

この会議が始まるにあたり、4年以上にわたりやさしい日本語の社会啓発活動を行い、数々の自治体で講演やワークショップを実施した経験から、議論のポイントを提案したい。

ポイント① 元の情報整理・調整に関する制度的・社会的合意が不可欠

公文書のやさしい日本語の書き換えは横浜市をはじめとした自治体がすでに独自に取り組んでいるが、最近やさしい日本語に取り組みを始めた自治体の方々の意見の多くは、

・行政文書の情報量を減らさずにやさしい日本語にするのは難しい

・情報を書き換えたり減らしたりする権限や法的根拠もないので、責任がとれない。

というものである。

やさしい日本語は多言語対応における1言語という位置づけであり、日本語から翻訳された別な日本語と言ってよい。外国語への翻訳では翻訳会社は職業倫理上元の情報に勝手に足したり引いたり変更を加えたりしない。しかし、やさしい日本語への翻訳は元の情報に手を加えるという点で大きな違いがある。

何より先に、やさしい日本語で伝えるために情報の整理・調整をすることに、制度的な根拠を与えることが不可欠である。同時に、敬語を減らした表現などには反発を持つ市民も少なくない。やさしい日本語という手法を周知し、社会的合意を形成することも重要である。

やさしい日本語のための情報整理・調整にこのような制度的・社会的合意が成立すれば、そこで作られたやさしい文章は、外国語への翻訳にも使うことが可能であり、丸投げの時より安価で迅速な納品が期待できるだろう。やさしい日本語の制度的推進は、多言語対応における総合的なコスト削減にも貢献する。

ポイント② スマホ閲覧を前提とした編集とし、AI翻訳の活用も視野に。

紙媒体を外国語に多言語化する際、1つのパンフレットなどに複数言語を盛り込むにも限界があり、言語ごとにパンフレットを製作してもコストがかかる。そもそも相手の言語別に郵送するといった対応は現実的でない。結果的には庁舎に取りに来ることを前提とした配布方式となり、必要とする人に幅広く周知させることは無理だといえよう。

多文化共生社会において多言語化すべきは、本来すべての情報である。紙のパンフレットになっているものだけではない。多言語対応に関する「敷居」と「コスト」をできるだけ下げることで、対応する情報を増やしていく必要がある。

「敷居」は前述の「情報整理・調整に関する制度的・社会的合意」で下げることができ、翻訳の「コスト」も安くなる。さらに外国人にも普及しているスマートフォン画面での閲覧を前提に構成を定めていけば、さらなるコスト削減につながるだけでなく、より幅広い人への周知も可能になるだろう。

このようなときのやさしい日本語を考える上で、以下の2点がポイントとなるであろう。

1.AI翻訳をつかって高い翻訳精度が期待できるやさしい日本語のあり方の研究・開発

日本語学習者向けのやさしい日本語と、AI翻訳向けのやさしい日本語の共通点・相違点などを見出し、これまでの研究資産に加えどのような視点を加えればAI翻訳にも使えるのか検討していくことが期待される。

2.スマホを通じてやさしい日本語にアクセスする時のあり方の研究・開発

これまでのやさしい日本語はルビを振る・分かち書きをするなどが推奨されてきたが、スマホでの閲覧では、辞書機能との連動や読み上げソフト利用など、これまでと違うアクセシビリティも想定しておく必要があろう。

政府レベルが初めてやさしい日本語に取り組むということで、関係者の期待は高い。やさしい日本語へ言い換え対応表を作るだけでなく、本来のゴールである多言語対応推進にも直結し、現場の取り組みを後押しする政策議論を期待したい。

吉開 章(よしかい・あきら)

吉開 章(よしかい・あきら)寄稿者

投稿者プロフィール

やさしい日本語ツーリズム研究会事務局長、株式会社電通勤務。2010年日本語教育能力検定試験合格。会員3万人以上の日本語学習者支援コミュニティ「The 日本語 Learning Community(Facebook参照)」主宰。ネットを活用した自律学習者に詳しい。2016年「やさしい日本語ツーリズム」企画を故郷の福岡県柳川市で立ち上げ。論文・講演実績などはこちら(WEB参照)。

この著者の最新の記事

関連記事

コメント

  1. erectile ointment
    ace inhibitors erectile dysfunction
    erectile on demand pdf

  2. azithromycin 250 https://azithromycinx250.com/

  3. buy inhalers for asthma online https://amstyles.com/

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


イベントカレンダー

12月
13
2:00 PM 生活者としての視点から、留学生、... @ オンライン講座(Zoom使用)
生活者としての視点から、留学生、... @ オンライン講座(Zoom使用)
12月 13 @ 2:00 PM – 4:00 PM
生活者としての視点から、留学生、令和2年度 文化庁 日本語教育人材の研修プログラム普及事業 『生活者としての外国人』との共生社会 多文化共生社会の実現を考える公開セミナー @ オンライン講座(Zoom使用)
Googleカレンダーに追加    カレンダーアプリに追加 生活者としての視点から、留学生、就労者、児童生徒と家族、日系人、難民についてみなさんと一緒に考えるセミナーです。 イベント形態 オンライン Webセミナー Zoom 料金制度 無料イベント ジャンル 学ぶ > 教養 事務局 インターカルト日本語学校 日本語教員養成研究所    ※当イベントは上記の事務局によって企画・運営されており、(株)こくちーずは関与しておりません イベント詳細 ★お申し込みは各セミナーごとにしていただく必要がございます。  お手数ですが、下記各セミナーのお申し込みリンクまたはページ下部の「お申し込み」より参加する日程を選択し、それぞれお申し込みをお願いいたします。  またお申し込み情報を入力する際に、セミナーの内容や日付にお間違いがないか、よくご確認いただきますようお願いいたします。 ★こちらはオンライン参加用の申し込みページとなります 会場参加をご希望の方はこちらからお申し込みください → 福島/名古屋 一般社団法人ふくしま多言語フォーラム(東北)/インターカルト日本語学校(関東)/Semiosis株式会社(東海)/久留米ゼミナール日本語学科(九州)/国際言語文化センター(沖縄) 主催
1月
17
1:00 PM 「生活者としての難民の皆さんと共... @ オンライン講座(Zoom使用)
「生活者としての難民の皆さんと共... @ オンライン講座(Zoom使用)
1月 17 @ 1:00 PM – 3:00 PM
「生活者としての難民の皆さんと共に」〜日本語の学習が人生を豊かにする〜 日本に暮らす難民の方たちについて、私たちは何をどれくらい知っているでしょう。ミャンマーの少数民族を支援するNPO法人PEACEのマリップ・センブ代表、長年にわたり政策面で難民支援をする中川正春衆議院議員のほか、日本語を学ぶ人、教える人、支える人と共にこれからの共生社会について考えます。テーマは「日本語の学習が人生を豊かにする」、日本語教育に携わる人だけでなく、広く日本中の皆さんに参加していただきたいと思っています。 【登壇者(予定)】 中川正春 氏(衆議院議員) マリップセンブ 氏(NPO法人PEACE代表) 宗田勝也 氏(大学教員) 宗田勝也 氏(難民クラス担当日本語教師) 難民二世の方 主催:インターカルト日本語学校(関東) 日時:2021年1月17日(日)13:00〜15:00 参加方法:オンライン(Zoom) お申し込み:https://www.kokuchpro.com/event/af94e88075461bd5cb9fff2e90261cfe/1435809/
ページ上部へ戻る