NHKの「“働く留学生”ニッポンを支える現実」を読んで

◎NHKの「“働く留学生”ニッポンを支える現実」を読んで

NHKテレビの報道特集「“働く留学生”ニッポンを支える現実」が、NHKのサイトに「特集記事」として掲載されました。西日本新聞社が「新 移民時代」の連載第1部の「出稼ぎ留学生」で留学政策が抱える矛盾や問題点を報じていましたが、同様の視点で「ゆがんだ現状」を指摘しています。NHKもサイトの記事で「“出稼ぎ”留学生」という言葉を使っていますが、この言葉はマスコミ用語としとて定着する可能性が大きいと見ています。それだけ問題が深刻であり、世論の注目を集めているということです。

「出稼ぎ留学生」という言葉に対して多くの日本語学校は違和感を覚えるでしょう。日本語学校からは「まじめな留学生が大半なのに、留学生といえば脱法行為をしていると見られるのはしのびない」という声が聞こえてきます。そして「入管が日本語学校への対応を一律に厳しくされてはかなわない」という危機感もあるでしょう。

しかし、政府が規制を厳しくすれば解決できる、という問題ではないと思います。NHKのサイトの記事で国士舘大の鈴木江里子教授が「留学生が働きに来ているから間違っているという議論があるがそうではないと思う。働きたいという人がいて、働いてもらいたいという企業ニーズが現実としてある。無条件に働いてもいいことにはならないが、両者のニーズをマッチングできる制度を検討する時期にきているのではないか」と話しているが、まさにその通りだ。問題は「両者のニーズをマッチングできる制度」をどう作るかでしょう。

また、NHKは「外国人労働者の受け入れをめぐっては、“治安”や日本人の雇用に悪い影響を与えるのではいかと懸念する声があることも確かで、そうした視点からの議論も必要です」とも言っています。確かにその通りですが、そうした議論は20年近く前からあり、マスコミは「治安と雇用」への懸念を常套語として繰り返しています。

数日前に開かれたシンポジウムで国家公安委員長の河野太郎衆院議員は、「外国人犯罪」の数字を挙げ、技能実習生の不法就労などの違法行為は多いが、その他の外国人の犯罪発生率は日本人よりの低いことを説明していました。数字は失念しましたが。

日本語議連は次回の総会で、日本語学校関係者からヒアリングを行う予定です。日本語議連としても、この課題に対して強い問題意識を持っています。様々な議論があると思いますが、より良い仕組みをどう作るか。「政治の知恵」が試されることにもなります。

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

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