即戦力の労働者求め外国人受け入れ枠を大幅拡大 政府は骨太の方針に 

即戦力の労働者求め外国人受け入れ枠を大幅拡大 政府は骨太の方針に

政府の経済財政諮問会議が5日開かれ、出席した安倍晋三首相は「地方の中小、小規模事業者の人手不足は深刻化している」と強調し、「一定の専門性・技能を持つ即戦力の外国人材を幅広く受け入れる仕組みを早急に構築する」と述べた。6日の日本経済新聞が詳しく伝えている。

日経新聞によると、建設や農業、介護など5つの分野を対象に2019年4月に新たな在留資格を設ける。原則認めていなかった単純労働に門戸を開き、2025年までに50万人超の就業を目指すという。政府はこうした方向を今月中旬に閣議決定する経済財政の基本方針(骨太の方針)に明記。秋の臨時国会には入管法の改正案を提案する。

さらに、新たな在留資格については2つの方法を提示する。1つは最長5年の技能実習制度を延長し、実習を修了した後も日本で仕事ができるようにする。2つ目は建設や農業分野では日本語能力が「N4」を原則にしながら、そこに達しないケースも認める。

記事では「日本政府がまず取り組むべきなのは日本語教育だ。行政と企業が連携し、学習機会を提供しなければならない」と主張。そのこと自体は、日本語教育推進議員連盟が作成した日本語養育推進基本法(仮称)の原案に沿ったものだ。

このほか、記事の中で「外国人労働者から『選ばれる国』になるために受け入れ態勢の整備が必要だ」と指摘する。ここは重要なポイントだ。国は責任をもって日本語教育も方策の1つだが、「選ばれる国」になるには、その他の施策も整備しなければならない。すでに日本はアジアでも「給料が高い国」とは言えなくなってきた。安倍首相は「移民政策とは異なる」と述べたそうだ。「移民政策」をどう定義については様々な議論があるだろうが、要は「外国人が住んでみたくなるような魅力を持った国」ということになるだろう。受け入れ枠の拡大の「次の施策」が問われている。

 

【解説】日系人受け入れ枠拡大の「反省」を忘れるな

日本政府が外国人受け入れに大きく舵を切ったのは、1989年の入管法改正だ。ブラジル、ペールなどの日系人の3世までを対象に「定住」の在留資格を設けたことで、南米からの日系人が急増した。その法改正に携わった学者の「反省の弁」をあるシンポジウムで聞いたことがある。「彼らはデカセギだからお金を稼いだら母国に帰ると思っていた」。ところが家族を呼びせよたり、日本で結婚するなどして定住化が一気に進んだ。その数は一時30万人を超えた。

多くは日本語がしゃべれなかった。近所の日本人との軋轢が生れ、子供は日本の学校に入学しても、授業についていけなかった。非行に走る少年も多く、社会問題としてとらえる見方が広まった。総務省は「多文化共生プラン」という指針を作成した。そここと自体は大きな前進だったが、現実には地方自治体に対応が任された。

2008年のリーマンショックを受け、自動車産業など産業界は一挙に日系人労働者を切り捨てた。まさに外国人労働者は景気の「調整弁」、都合のいい使い捨て労働者だった。政府は帰国支援金として旅費を出したが、体のいい「手切れ金」だった。苦汁をなめた、ある日系ブラジル人は「もう日本にはいかない」と吐き捨てた。日本は外国人にとって「魅力のある国」だったのかどうか。

あれから10年。日本の高齢化に伴う労働力不足は深刻化の度合いが一層、深まっている。安倍内閣は1989年の入管法改正以来の外国人受け入れの大拡大策をとろうとしている。経済財政諮問会議はもちろん部外の専門家からの意見も聞いて方針を決定したのだろうが、「経済財政の視点」からだけで生身の人間の扱いを決めていいのかどうか。技能実習の期間を3年から5年に延ばし、さらに延長することが外国人の家庭に配慮した政策なのか。雇用する側の論理だけでものごとを決めていないか。

移民政策かどうかはともかく、外国人の「生活」について配慮が行き届いた政策は不可欠である。日本人と外国人が共生する社会をどう作るか。2050年には日本の人口は1億人を割り込む。政治にはいま、長期的なビジョンが求められている。

平成30年第8回経済財政諮問会議(議事・資料)

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

6月
12
12:00 AM 留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
6月 12 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
日振協による文部科学省委託の初任研修が今年も始まります。 告示校で10年程度専任で経験されている方対象です。 OJTで実際の運営に関わりながら研修運営を肌で学んでいただけます。 研修詳細は協会ホームページより、チラシと募集案内をダウンロードしてご確認ください。   「日振協 留学生対象の日本語教師初任者研修」は「オンライン映像講義」「(オンライン)集合研修」「自己研修(自律的学習)」の三位一体の編成により、①自律的・持続的な成長力 ②対話力 ③専門性という3つの資質・能力の育成を目指すもので、忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の教育機関に所属している受講生への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 2020年度から、この初任者研修と並行して、「育成研修」を併せて実施しています。「育成研修」は初任者研修のサポートを行いながら研修の企画や実施方法を学び、将来全国各地で初任者研修の実施担当者として活躍していただく人材を育成する研修です。具体的には以下のことを目指しています。 ①初任者教員の協働的かつ自律的な学びを支援し、21世紀に活躍できる日本語教師としての資質・能力及びICT活用能力の獲得へと導く ②研修委員に必要な経験と能力を身につける 研修は、フルオンライン(zoom使用)で実施いたします。学内で初任者の指導を任されている方、地方在住でなかなか研修機会に恵まれない方など全国各地からご参加いただきたく存じます。修了生は今後実施委員になっていただく可能性もございます。どうぞ奮ってご応募ください。 チラシ(PDF 裏表2頁/1枚)
6月
29
12:00 AM 留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
6月 29 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
本研修のカリキュラムは文化審議会国語分科会の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」に基づいており、初任者が体系的・計画的に日本語指導を行うための実践的能力として (1)自律的・持続的な成長力 (2)対話力 (3)専門性 の3つの資質・能力の養成を狙いとした90単位時間のプログラムです。忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の日本語教育機関の新任の先生方への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 研修形態はフルオンラインです。昨年度同様、今後日本語教師にますます求められるであろうICT活用能力(オンライン授業やハイブリッド授業の実践等)に重点を置いた研修を行います。 つきましては、ぜひ多数の日本語教師初任者の方にご参加いただきたく下記のとおりご案内いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。 チラシ(PDF 表裏2頁/1枚)
7月
27
1:30 PM 凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター
凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター
7月 27 @ 1:30 PM – 4:00 PM
凡人社日本語サロン研修会 『できる日本語』ブラッシュアップ講座 ~課題に向き合い、仲間とともに,より良い実践をめざしませんか~   [日時・会場・定員] 全日:13:30~16:00(受付開始 13:00) ※各会場先着順、定員になり次第締め切ります     【日付】2024/7/27 (土) 【会場】大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター(大阪市中央区久太郎町3-5-19) 【定員】80名   【日付】2024/9/1 (日) 【会場】福岡会場博多バスターミナル(福岡市博多区博多中央街2) 【定員】60名   [対 象] 主に日本語学校の教師・関係者、日本語教育ボランティア、日本語教育に関心のある方   [参加費] 無料 ※要予約   [講 師] 嶋田 和子 先生(『できる日本語』監修) 他『できる日本語』著者の先生方   [内 容] 『できる日本語』の輪が広がり続け、「実践について学べる場がほしい」という声がたくさん寄せられています。 そこで、現在『できる日本語』を使っていらっしゃる方々に向けて、「ブラッシュアップ講座」を開くこととしました。 当日は、具体例を挙げながらより良い実践について考えていきます。 事前にお寄せいただいた質問の中から共通の課題を取り上げ、ご一緒に解決に向けて考えていきます。 また、すでにあちらこちらで【できる日本語ネットワーク】が生まれていますが、今回の対面講座で、さらに新たな輪が生まれることをめざします。   [お問い合わせ・お申込み] 主催:アルク・凡人社 お問い合わせ・申し込み先(担当:凡人社/坂井)   E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   ※下記お申込みフォームかQRコードかメールにてお申し込みください。 メールでお申し込みの際はタイトルに「日本語サロン研修会(●/●)@●●」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。 ※●/●部分は開催日時と場所をご記入ください。   お申込みフォーム→https://x.gd/3kYVu
8月
5
10:00 AM 令和6年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
令和6年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
8月 5 @ 10:00 AM – 8月 6 @ 4:30 PM
一般財団法人日本語教育振興協会では、日本語教育機関に勤務する教職員等のための「日本語学校教育研究大会」を実施しております。 今年度は2024年8月5日(月)・6日(火)に、5年ぶりの対面開催で行います。 大会では、各日本語教育機関における実践・事例の報告の機会として、発表の場を設けています。 意見・アイディア交換の場としてぜひご活用ください。 皆様からのご応募お待ちしております。 発表応募締切:2024年5月15日(水) 発表応募要項・申込方法: https://www.nisshinkyo.org/news/detail.php?id=3076&f=news ※プログラム内容・参加お申込み方法など、大会の詳細については、 随時 https://www.nisshinkyo.org にてご案内してまいりますので、ぜひご覧下さい。

注目の記事

  1. 移民政策の先駆者・故坂中英徳さんを偲んで 第二話 日本型移民政策の提言(上) 元東京…
  2. 日本語議連第19回総会 日本語教育機関認定法の施行に向けて政省令など議論 日本語教育推…
  3. 日本語教育推進に尽力した中川元文科相が次期衆院選に出馬せず 元文部科学大臣で日本語教育…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate