「やさしい日本語は社会現象に」「多文化共生社会の実現に」 吉開章氏インタビュー

「やさしい日本語は社会現象に」「多文化共生社会の実現に」 吉開章氏インタビュー

外国人労働者の受け入れ拡大が始まった。インバウンドの外国人観光客も増加する一方だ。そうした中で、外国人とのコミュニケーション・ツールとして「やさしい日本語」が注目を集めている。大手広告会社の電通で「やさしい日本語ツーリズム研究会」(注1)の代表として活動する吉開章氏。その吉開氏が、自治体から「やさしい日本語」の研修の講師として引っ張りだこだ。吉開氏が11月に東京都内で自治体の研修担当職員の向けの「やさしい日本語」のワークショップ(注2)を開く。にほんごぷらっとの世話人でもある吉開氏にその狙いなどを聞いた。

(聞き手は、にほんごぷらっと編集長・石原進)

――日本語教育推進法も施行され、自治体の「やさしい日本語」への関心が高まっているようですが、研修講師の要請が増えていると聞いています。

吉開氏 はい、最近徐々に私の講演が口コミで広まっているようです。昨年は38回講演しました。今年はそれを大幅に上回り1.5倍程度になりそうです。4年前に「やさしい日本語ツーリズム研究会」を立ち上げ、故郷の福岡県柳川市でやさしい日本語ツーリズム事業を始めました。当初は本当に日本語で大丈夫なのと疑問を抱く人もいましたが、4年目の現在では、市内の商店街でも「やさしい日本語」でインバウンド対応しようという機運も出てきました。ほかにも「やさしい日本語」の効用はいろいろあって、多文化共生社会という新たな社会作りのために「やさしい日本語」が役立つことに自治体が気づいたのでしょう。

――自治体研修担当職員向けの講演では、どんな話をされているのですか。

吉開氏 外国人が増えて求められているのは、まずは多言語対応が前提です。しかし現実には自治体が多くの言語で通訳を雇う余裕などはありません。「それなら英語だね」と言う人がいるかもしれませんが、耳慣れないタイ人やブラジル人の英語や、日本人のカタカナ英語などで会話をしようとしても、なかなかうまくいきません。だったら「やさしい日本語を使ってみては」と提案するわけです。講演では「やさしい日本語の『はさみの法則』」を丁寧に説明します。「っきり言う」「いごまで言う」「じかく言う」ということです。これをまず覚えてもらうわけですが、日本語の難しい点や文化の違いによって起きたトラブルの事例なども紹介しています。

――自治体側が職員に「やさしい日本語」を研修させる大きな目的は何なのでしょうか。

吉開氏 やはり多文化共生社会への認識を深め、具体的に行動を起こすためだと思います。私自身もびっくりしているのですが、同じ自治体で、「全職員に徹底したいから、同じ内容で何コマもやってくれ」と依頼されたこともあります。「多文化共生」という考えが急速に定着しつつあると感じています。この企画はツーリズムから入りましたが、私は日本語教育を学び日本語教師の資格も持っており、常に多文化共生社会を作るための「やさしい日本語」啓発を意識しています。

――やさしい日本語に関しては、ツーリズムや多文化共生のほか、外国人の防災・減災を目的したものもあります。AI翻訳との親和性にも言及されていますが。

吉開氏 私は昨年7月ごろから講演で「AI翻訳とやさしい日本語」について話をしています。AI翻訳の精度が急速にアップしていますが、AI翻訳に「やさしい日本語」を使うと、よりいい翻訳結果がでます。2019年には総務省もそれを認めるようになりました。今後、商店街での外国人対応など幅広く活用されるよう期待しています。また、「やさしい日本語」は障害がある人や高齢者との会話にも役に立ちます。まさに「優しい日本語」です。

――自治体の研修担当者向けの「やさしい日本語」の講演・ワークショップを無償で開くと聞いていますが、どのような目的で開催するのでしょうか。

吉開氏 地方を含めたより多くの自治体の担当者の方に「やさしい日本語」について理解を深めていただきたいと考えています。「やさしい日本語」の言葉をネットで検索してもらえば、すでにいろいろな地域でセミナーが開かれています。そうした取り組みを自治体の方にしっかりと受け止めてもらい、共生のための施策を推進してもらえばと思います。

――政府も「やさしい日本語」の重要性を認識し始めたようですね。

吉開氏 法務省が生活・仕事ガイドブックのやさしい日本語版を作成しましたが、これは大きな意味があると考えます。その範囲で行政が外国人に情報を提供するようになるし、日常のコミュニケーションのガイドラインにもなります。一方、文部科学省・文化庁なども生活者としての外国人への日本語教育について検討している最中ですが、そこでの基準も私たち日本人にとっても外国人とのコミュケーションをとる際の参考にもなるはずです。

これまでは日本語能力試験の旧3級などが基準とされてきましたが、今後は様々な省庁の政策の中で、新しいガイドラインが策定されていくと思います。

(注1)https://www.yasashii-nihongo-tourism.jp

(注2)https://yasashii-nihongo-tourism.jp/2019/10/24/1663

—-  吉開章氏 —-
やさしい日本語ツーリズム研究会事務局長、株式会社電通勤務。
2010年日本語教育能力検定試験合格。
会員3万人以上の日本語学習者支援コミュニティ「The 日本語 Learning Community(Facebook参照)」主宰。
ネットを活用した自律学習者に詳しい。
2016年「やさしい日本語ツーリズム」企画を故郷の福岡県柳川市で立ち上げ。

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

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6月
12
12:00 AM 留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
留学生対象の日本語教師初任者研修... @ オンライン(ZOOM)
6月 12 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
日振協による文部科学省委託の初任研修が今年も始まります。 告示校で10年程度専任で経験されている方対象です。 OJTで実際の運営に関わりながら研修運営を肌で学んでいただけます。 研修詳細は協会ホームページより、チラシと募集案内をダウンロードしてご確認ください。   「日振協 留学生対象の日本語教師初任者研修」は「オンライン映像講義」「(オンライン)集合研修」「自己研修(自律的学習)」の三位一体の編成により、①自律的・持続的な成長力 ②対話力 ③専門性という3つの資質・能力の育成を目指すもので、忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の教育機関に所属している受講生への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 2020年度から、この初任者研修と並行して、「育成研修」を併せて実施しています。「育成研修」は初任者研修のサポートを行いながら研修の企画や実施方法を学び、将来全国各地で初任者研修の実施担当者として活躍していただく人材を育成する研修です。具体的には以下のことを目指しています。 ①初任者教員の協働的かつ自律的な学びを支援し、21世紀に活躍できる日本語教師としての資質・能力及びICT活用能力の獲得へと導く ②研修委員に必要な経験と能力を身につける 研修は、フルオンライン(zoom使用)で実施いたします。学内で初任者の指導を任されている方、地方在住でなかなか研修機会に恵まれない方など全国各地からご参加いただきたく存じます。修了生は今後実施委員になっていただく可能性もございます。どうぞ奮ってご応募ください。 チラシ(PDF 裏表2頁/1枚)
6月
29
12:00 AM 留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
留学生に対する日本語教師初任研修 @ オンライン
6月 29 2024 @ 12:00 AM – 1月 31 2025 @ 12:00 AM
本研修のカリキュラムは文化審議会国語分科会の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」に基づいており、初任者が体系的・計画的に日本語指導を行うための実践的能力として (1)自律的・持続的な成長力 (2)対話力 (3)専門性 の3つの資質・能力の養成を狙いとした90単位時間のプログラムです。忙しい仕事の合間を縫って学べるよう、また地方の日本語教育機関の新任の先生方への負担を減らすため、e-Learningを利用した研修となっています。 研修形態はフルオンラインです。昨年度同様、今後日本語教師にますます求められるであろうICT活用能力(オンライン授業やハイブリッド授業の実践等)に重点を置いた研修を行います。 つきましては、ぜひ多数の日本語教師初任者の方にご参加いただきたく下記のとおりご案内いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。 チラシ(PDF 表裏2頁/1枚)
7月
27
1:30 PM 凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター
凡人社日本語サロン研修会 『でき... @ 大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター
7月 27 @ 1:30 PM – 4:00 PM
凡人社日本語サロン研修会 『できる日本語』ブラッシュアップ講座 ~課題に向き合い、仲間とともに,より良い実践をめざしませんか~   [日時・会場・定員] 全日:13:30~16:00(受付開始 13:00) ※各会場先着順、定員になり次第締め切ります     【日付】2024/7/27 (土) 【会場】大阪会場TKP 大阪本町カンファレンスセンター(大阪市中央区久太郎町3-5-19) 【定員】80名   【日付】2024/9/1 (日) 【会場】福岡会場博多バスターミナル(福岡市博多区博多中央街2) 【定員】60名   [対 象] 主に日本語学校の教師・関係者、日本語教育ボランティア、日本語教育に関心のある方   [参加費] 無料 ※要予約   [講 師] 嶋田 和子 先生(『できる日本語』監修) 他『できる日本語』著者の先生方   [内 容] 『できる日本語』の輪が広がり続け、「実践について学べる場がほしい」という声がたくさん寄せられています。 そこで、現在『できる日本語』を使っていらっしゃる方々に向けて、「ブラッシュアップ講座」を開くこととしました。 当日は、具体例を挙げながらより良い実践について考えていきます。 事前にお寄せいただいた質問の中から共通の課題を取り上げ、ご一緒に解決に向けて考えていきます。 また、すでにあちらこちらで【できる日本語ネットワーク】が生まれていますが、今回の対面講座で、さらに新たな輪が生まれることをめざします。   [お問い合わせ・お申込み] 主催:アルク・凡人社 お問い合わせ・申し込み先(担当:凡人社/坂井)   E-mail:ksakai@bonjinsha.co.jp   ※下記お申込みフォームかQRコードかメールにてお申し込みください。 メールでお申し込みの際はタイトルに「日本語サロン研修会(●/●)@●●」と入れて、本文にご氏名・ご所属・ご連絡先をご記入ください。 ※●/●部分は開催日時と場所をご記入ください。   お申込みフォーム→https://x.gd/3kYVu
8月
5
10:00 AM 令和6年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
令和6年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
8月 5 @ 10:00 AM – 8月 6 @ 4:30 PM
一般財団法人日本語教育振興協会では、日本語教育機関に勤務する教職員等のための「日本語学校教育研究大会」を実施しております。 今年度は2024年8月5日(月)・6日(火)に、5年ぶりの対面開催で行います。 大会では、各日本語教育機関における実践・事例の報告の機会として、発表の場を設けています。 意見・アイディア交換の場としてぜひご活用ください。 皆様からのご応募お待ちしております。 発表応募締切:2024年5月15日(水) 発表応募要項・申込方法: https://www.nisshinkyo.org/news/detail.php?id=3076&f=news ※プログラム内容・参加お申込み方法など、大会の詳細については、 随時 https://www.nisshinkyo.org にてご案内してまいりますので、ぜひご覧下さい。

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