埼玉県川口市の芝園団地の「実像」とは? 団地自治会の事務局長が「団地と共生」を出版
埼玉県川口市の芝園団地の「実像」とは? 団地自治会の事務局長が「団地と共生」を出版
芝園団地事務局長の岡﨑広樹さんから自著を紹介する文章と写真を送っていただきました。岡﨑さんとは明治大学の山脇啓造教授が主宰する勉強会で知り合い、そのユニークな活動や苦労話を聞いていました。その岡﨑さんが「団地と共生」という著書を出版されたと聞き、とりあえずご自身で紹介文を寄稿するようお願いした次第です。今回、送付していただいたのが、以下の「『団地と共生』の出版に寄せて」の文章です。「多文化共生社会」という言葉が普通に使われるようになりましたが、著書にはマスメディアが伝えない「共生社会現場」が詰まっているようです。岡﨑さんの「出版に寄せて」に目を通したうえで、「団地と共生」をぜひとも購読するようお勧めします。
にほんごぷらっと編集長・石原 進
『団地と共生』の出版に寄せて
2022年12月、「団地と共生-芝園団地自治会事務局長 二〇〇〇日の記録」(論創社)を出版しました。本書は、私自身がUR川口芝園団地(以下、芝園団地)に住みながら、一住民として「隣近所の多文化共生」に取り組んできた体験記です。2013年に初めて訪問し、2014年には住み始めました。2017年からは自治会の事務局長を務めており、約10年におよぶエピソードを綴っています。
芝園団地は、2010年に週刊誌で「チャイナ団地」と揶揄されて、外国人に乗っ取られた団地とまで言われました。その一方で、近年では「多文化共生の先進地」とも言われています。両極端な評価を受けてきた芝園団地の実態とは何か。その疑問に答えるべく、本書では約10年にわたる活動を通じて、私自身が掴んだ芝園団地の「実像」を記しました。
芝園団地がある埼玉県川口市芝園町の人口は4,600人。そのうち、外国人住民は2,600人(人口の55%)となり、大半が中国人住民です。高齢者の日本人住民と若者の外国人住民で構成される、さながら「将来の日本の縮図」といった地域です。
一般的に、芝園団地はどのような姿に見えるのでしょうか。取材や視察に来る方々は、次の二つの質問を必ずします。
「どんな生活トラブルが起きていますか」
「日本人と外国人はどのように関係を築いていますか」
日本人住人と外国人住人の間では、何か特別なことが起きているのではないか。外国人住人が集住している事実は、そのような姿に見えているようです。
確かに、日常の暮らしに根差した騒音などの生活トラブルは起きています。やはり、日本と母国との生活習慣の「ちがい」は、隣近所で表面化しやすくなる。そこで、生活トラブルなく「お互いに静かに暮らせる関係」=「共存」を築こうとしてきました。
さらに、日本人住人と外国人住人の間には、文化・言葉や世代などの「ちがい」までもがあります。たとえば、世代差があると、日常の生活時間帯が違ったり、子育て中に出会わなかったり。隣近所に住んでいても、お互いに出会うきっかけさえないのが実情です。そこで、「お互いに協力する関係」=「共生」を築こうとしてきました。
その結果、「以前と比べれば住環境はだいぶ改善した」という古参の日本人住人の声が聞こえるように。また、2014年度の自治会役員7名のうち、外国出身者は0名でしたが、2022年度には役員9名のうち、外国出身者が4名になりました。
このような変化を知ると、次のように思われるかもしれません。外国人住人が増える過程で、「チャイナ団地」と揶揄されるようなトラブルが起きた。その後、様々な取り組みを進めたことで、今では「多文化共生の先進地」と言われるまでに至った。それが芝園団地の「実像」だろう、と。
しかし、これらの出来事は、芝園団地で起きていることの氷山の一角でしかない。決して、芝園団地の「実像」とまでは言えません。約10年にわたる活動を経て、私自身が掴んだ芝園団地の「実像」は、現代社会の普遍的な課題を表していました。その「実像」を理解した時、外国人住人の集住という事実が、私自身にある種の固定観念を植え付けていた、と気づき衝撃を受けたのです。
本書は、私自身が見聞きし体験してきた出来事を通じて、芝園団地の「実像」に気づくまでの過程を追体験できるオリジナルな一冊です。さらに、「隣近所の多文化共生」に取り組むうえで、「鍵」となるヒントが散りばめられています。
多文化・多世代の地域活動、新しい住民との関係づくりや地元外部の力を活かした地域づくりのヒントを得たい方にお勧めします。
外国人集住地域に関しては、メディアの情報などが偏っていて、その実態が分かりにくい。その現実を理解して、外国人集住地域の解像度を上げたい方に、特にお勧めしたい一冊です。
以上
(岡崎さんの写真は、浅野剛さん撮影)