産経ニュースが在留外国人の生活保護受給の増大に警鐘 「日本語教育が必要」との指摘に反響も

産経ニュースが在留外国人の生活保護受給の増大に警鐘 「日本語教育が必要」との指摘に反響も

産経ニュースが今月3日、在留外国人の生活保護受給が増大していることに警鐘を鳴らす記事をサイトに掲載した。外国人が社会的なコストを増大させているとしたら、日本人側から反発の声が出るかもしれないが、ニュースで外国人の再就職の障害となっているのが「日本語の壁」であると指摘したことで、サイトには政府に日本語教育に力を入れるよう訴える書き込みが相次いだ。

産経ニュースの見出しは「生活保護受給外国人の多い群馬県大泉町を歩く 日本語の壁 再就職できず」。外国人の人口比が全国トップ18.1%の大泉町の現地ルポだ。また産経新聞の関連情報誌のサンケイビズは同日、「生活保護の外国人最多、バブル期背景 16年度月平均4.7万世帯」という記事を掲載した。全国平均の数字だ。

産経ニュースによれば、大泉町は人口約4万2000人。SUBARU(スバル)など大手自動車メーカーの工場があり、バブル期の人手不足を機に下請け工場などが外国人受け入れを拡大したという。3月末現在の町内に在住する外国人はブラジル、ペルーの日系人を中心に7586人。このうち生活保護受給者は94人。外国人の人口比18.1%に比べ、生活保護受給者の比率は23.1%と高水準であると指摘する。サンケイビズのニュースは、この問題が全国的な傾向であることを裏付けている。

ニュースは「生活保護受給が多い原因の一つとして考えられるのは日本語能力のなさだ」と指摘する。大泉町は日本語講座を開くなど対応しているが、追い付かない状況だという。そのうえで「制度説明のポルトガル語資料は町が作っており、コストがかかる。国で全国統一のものを作ってほしい」と町の要望も掲載。サンケイビズも、「日本語が話せないために就職が難しいこと」だという。

これに対し、ネットには「じゃあやることは決まっている、日本語教育。それをやるのが政治じゃないの?」「国は外国人労働者に対してキチンと日本語教育をするべきだった。彼等だってバブル期の労働を必死になって担ってくれた立役者だと思う」「就労の意志があり、日本語教育を受けたいと考えている外国籍の方を支援する国の制度が必要かもしれません」などの書き込みがあった。外国人への批判もあったが、日本語教育を推進すべきだという意見が多かった。

「定住者」の在留資格を持つ日系人は職種を限定されずに仕事に就くことができるが、実際には日本語の読み書きができないと、いい仕事に就くことはできない。1989年に入管法改正で「定住者」の資格ができ、来日する日系ブラジル人などがどっと増えた。当初は日本語が必要のない工場労働者が圧倒的に多かったが、2008年のリーマンショック後は、日系人の子どもを含め日本語能力をどうアップさせるかが大きな課題となっている。

外国人の生活保護費の受給率が高いという現実は、ともすれば外国人に対する排外的なムードを煽りかねない。産経ニュースは「やみくもに外国人労働者を増やしても国の財政負担増などにつながりかけない。どんな課題にどう対処すればいいのか、大泉町は一つのモデルケースになりそうだ」と指摘する。

デカセギで来日した日系人の間でも、すでに65歳以上の高齢者が増え始めている。要介護認定を受けた人もいるはずだ。大泉町では、リーマンショック後もなお中小企業にとっては貴重な労働力だ。彼らは地方経済を支え、消費者としても地域経済の振興に貢献している。外国人が増えれば地方自治体には国から交付される地方交付税も増額される。外国人の増加は福祉や教育などのコストを増やす半面、様々な形のメリットもあるはずだ。大泉町をモデルケースにして徹底分析をすることは重要だ。

私たち「にほんごぷらっと」は、町立の日本語学校を運営する北海道東川町の事例を細かく取材し、留学生受け入れを地域の活性化につなげた事例を特集記事として連載した。産経ニュースが大泉町の現状をより踏み込んで取材し、外国人と共生するための課題とそれを解決する方策を提示してくれれば、他の自治体の参考になるだろう。

産経ニュースは触れていないが、超党派の日本語教育推進議員連盟が日本語教育推進基本法(仮称)の制定を目指し議論を進めている。基本法が成立すると、国が主導して日本語教育の推進事業を進める法的な枠組みができる。政府が責任をもって日本語教育を進めることで、支援の対象ではなく、タックスペイヤーとして社会に貢献できる外国人材を数多く育てる道が開く必要がある。

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

7月
12
終日 言語科学会 第26回年次国際大会(J... @ 愛媛大学 城北キャンパス
言語科学会 第26回年次国際大会(J... @ 愛媛大学 城北キャンパス
7月 12 – 7月 13 終日
言語科学会第 26 回年次国際大会(JSLS2025)開催・研究発表募集のご案内 言語科学会 (JSLS: The Japanese Society for Language Sciences) では以下の要領で、 第 26回年次国際大会 (JSLS2025) を開催いたします。 大会日程: 2025 年 7 月 12 日(土)~ 13 日(日) 開催場所: 愛媛大学 城北キャンパス(愛媛県松山市文京町 3) 大会ウェブサイト: http://www.jslsconference.jpn.org/jsls2025/ 基調講演: Jae DiBello Takeuchi 氏 (Indiana University Bloomington)
7月
20
10:00 AM 【!!追加募集!!】NPO法人日本... @ オンライン (オンライン上での集合研修 および 動画視聴による個人学習) ・「就労者の異文化適応」「教材研究」は対面(東京・大阪)で実施。 オンラインでの参加も選択可能。
【!!追加募集!!】NPO法人日本... @ オンライン (オンライン上での集合研修 および 動画視聴による個人学習) ・「就労者の異文化適応」「教材研究」は対面(東京・大阪)で実施。 オンラインでの参加も選択可能。
7月 20 2025 @ 10:00 AM – 2月 8 2026 @ 2:45 PM
【!!追加募集!!】NPO法人日本語教育研究所 主催文部科学省委託 令和7年度現職日本語教師研修プログラム普及事業 就労者に対する日本語教師【初任】研修 就労者に対する日本語教師養成 –日本語教育研究所の多様な研修実績及び人材を活かしたビジネス日本語教育/指導- ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ この研修は、これから新たに就労者に日本語を教えたいと考えている方を主な対象としています。スキルアップにぜひお役立てください。 再受講をご検討の方へ 本研修はこれまでに弊所の研修をご受講された方も、再度ご参加いただけます。 実際に現場に出て、もう一度確認したいことなども出てきているのではないでしょうか。 さらに実践的な指導力を高める良い機会となりますので、ぜひご検討ください。 ─────────────────── ■期間 2025年7月20日(日) ~ 2026年2月8日(日) *日程等の詳細は、募集要項のリンク先からご覧ください。 ■対象 日本語教育機関認定法に基づく「登録日本語教員」を対象としますが、本法の経過措置期間内(令和10年度まで)は、令和6年度までに下記を修了した方も対象とします。 1)日本語教師として下記のいずれかの要件を満たす方  ①大学/大学院で日本語教育に関する教育課程を修了し、大学/大学院を卒業/修了した方  ②大学/大学院で日本語教育に関する科目の単位を26単位以上修得し、大学/大学院を卒業/修了した方  ③公益財団法人日本国際教育支援協会「日本語教育能力検定試験」に合格した方  ④学士の学位を有し、日本語教師養成講座 420 単位時間以上を修了した方 2)原則として、就労者への日本語教育歴が0~3年未満の方 ■定員 100名 ■受講料 20,000円(税込) ※教材費込み ■申込方法 以下のリンクからお申し込みください。 https://forms.gle/JWtnJ6WzzCNQvQx88 ■申込締切 2025年6月30日(月)【募集期間延長しました!!】 ■募集要項 https://docs.google.com/document/d/1uHn1k6zdRIgcQ2-lK5Uyr1Qa5vlwzXCFvKEUw3UjJVU/edit?usp=sharing ■お問い合わせ NPO法人 日本語教育研究所(研修事務局) nikken.kenshu@gmail.com
8月
7
10:00 AM 令和7年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
令和7年度日本語学校教育研究大会 @ 国立オリンピック記念青少年総合センター
8月 7 @ 10:00 AM – 8月 8 @ 4:30 PM
日本語学校教育研究大会では、各日本語教育機関における実践・事例の報告の機会として、発表の場を設けています。 意見・アイディア交換の場としてぜひご活用ください。 皆様からのご応募お待ちしております。
8月
26
10:06 AM 第11回日本語教育支援システム研究... @ 英キール大学(Keele University)
第11回日本語教育支援システム研究... @ 英キール大学(Keele University)
8月 26 @ 10:06 AM
第11回日本語教育支援システム研究会(CASTEL/J)国際大会 第11回日本語教育支援システム研究会(Computer Assisted Systems for Teaching and Learning Japanese – CASTEL/J)国際大会を英国中部スタッフォードシャー州にあるキール大学(Keele University)にて英国日本語教育学会(BATJ)・キール大学ランゲージ・センターとの共催で開催することとなりました。 日本語教育支援システム研究会国際大会は、日本語教育関係者、日本語教育のリーダーに日本語教育におけるテクノロジー使用の最先端の動き、将来の方向性を共有する機会を作ってきました。2020年のパンデミックにより授業のオンライン化・ハイブリッド化が進み、それに加えて、この数年の人工知能(AI)技術の急速な発展と普及により、日本語教育は元より私たちを取り巻くテクノロジー環境が大きく変化しています。これらの技術的発展を効果的に教育・学習に取り入れ促進していくことは今まで以上に重要となっています。世界中からこの分野の優れた研究者、実践者が集まるこの国際大会に是非ご参加ください。 日時:2025年8月26日(火)〜27日(水) 会場:英スタッフォードシャー州キール大学チャンセラーズ・ビルディング 共催:英国日本語教育学会(BATJ)、キール大学ランゲージ・センター

注目の記事

  1. 移民政策の先駆者・故坂中英徳さんを偲んで 第五話 2050年の「ユートピア」 元東京入管局長の…
  2. 移民政策の先駆者・故坂中英徳さんを偲んで 第三話 坂中論文 在日コリアンに関心の…
  3. 小説家を目指す日系ペルー人 山田マックス一郎さんが語る夢とは 山田…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate