【解説】共生社会のインフラ整備の第一歩 政治の責任で早期成立を

【解説】共生社会のインフラ整備の第一歩 政治の責任で早期成立を

超党派の日本語教育推進議員連盟が作成した日本語教育推進法案は、日本語教育を「国の責務」と規定したほか、地方自治体、外国人を雇用する事業所にも日本語教育を推進するよう求めた。この法案には、日本語教育を進めるための必要不可欠な要件がおおむね盛り込まれている。今国会では外国人労働者受け入れ拡大の入管法改正案をめぐり与野党が激しい攻防を展開。そのあおりもあって、今国会での日本語教育推進法案の成立は困難だという。しかし、一日にも早い成立が必要であることは言うまでもない。来年の通常国会で早期に成立させるのは政治の責任だ。

在留外国人が急増する中、日本語教育の重要性が高まっている。外国人と言葉が通じれば交流が生まれる。交流をすればお互いの文化の違いが理解でき、信頼関係を築くことができる。外国人が様々な場面で日本語をきちんと学ぶための法的な仕組みが求められている。

外国人留学生はもとより、中長期に日本に滞在する外国人の「共通語」は日本語だ。ある調査で外国人に母国語以外の理解できる言葉を聞いたところ、日本語が63%だったのに対し、英語は44%だった。言葉を短くして外国人にわかりやすくする「やさしい日本語」だと9割の外国人と意思疎通ができるという調査もある。日本語教育は「共生社会」をつくるための最も重要なインフラだ。

法案では、外国にルーツを持つ児童生徒や留学生、技能実習生、難民などの日本語教育に関する推進策を挙げた。また、海外に住む在留邦人の子どもの母語継承語としての日本語教育、外国人への日本語の普及についても想定している。

政府は来年4月から外国人労働者の受け入れ拡大を目指している。議論が拙速だと批判する野党や世論の反対を押し切って、与党は入管法改正案を衆院通過させた。参院での採決を経てまもなく成立する見通しだ。安倍政権は、深刻な人手不足に悲鳴を上げる業界団体の要望を受けて「開国」に踏み切る方針だ。アベノミクスを進めるうえでも労働力の不足への対応は避けては通れない課題だ。

一方で安倍首相はリスクも背負うことになる。事実上の移民の受け入れとも言われる外国人労働者の受け入れ拡大には、安倍首相の支持基盤の保守層から反発の声が出ている。安倍政権だからこそ、保守層の反発を抑えることができたのも事実だが、今後の外国人労働者受け入れの在り方をめぐっては、反発が再燃する恐れが十分にある。

また、安倍政権は「共生社会」の構築という大きな宿題も背負うことになった。政府は年内に「外国人材受入・共生のための総合的対応策」をまとめる方針だが、日本人と外国人がわだかまりなく暮らせる共生社会を実現しないと、欧米諸国で見られるような社会の分断と軋轢を招きかねない。

そうした事態を避けるために必要不可欠なのが日本語教育だ。国が責任をもって日本語教育を進めなければいけない。言語政策の遅れが、後に移民受け入れの足かせとなったドイツなどの例に学ぶべきだ。政府は日本語教育を最優先課題として位置付ける必要がある。外国人に十分な日本語能力を身につけてもらい、日本社会で活躍できる環境を整えることは政府の責任だ。外国人には、労働力を提供してもらうだけでなく、納税などの義務も果たしてもらわなければならないのだ。

日本語教育推進議員連盟は、安倍政権の外国人労働者受け入れ拡大の動きとは関係なく2016年11月から議論を重ねてきた。結果として今臨時国会で日本語教育推進法案の策定と入管法改正の議論の時期が重なった。政府提出の入管法改正の議論が優先され、残念ながら議員立法の日本語教育推進法案の成立が先送りされる見通しだ。

2019年は後に「移民受け入れ元年」と言われるかもしれない。「移民政策はとらない」という安倍政権にとっても、外国人労働者受け入れ拡大策で支障が生じないよう様々な施策を講じなければならない。法案の付則には日本語学校の制度整備に関する事項も盛り込まれた。留学生の育成も重要課題だ。

今後の共生社会の重要施策が日本語教育だ。だとしたら外国人労働者受け入れ拡大が始まる来年4月を前に、日本語教育推進法案を年明けの通常国会の冒頭に成立させるべきだ。それこそが政治が果たすべき責任ではないか。

資料 日本語教育の推進に関する法律案

にほんごぷらっと代表世話人・編集長

石原 進

石原 進(いしはら・すすむ)日本語教育情報プラットフォーム代表世話人

投稿者プロフィール

「にほんごぷらっと」の運営団体である日本語教育情報プラットフォーム代表世話人。元毎日新聞論説副委員長、現和歌山放送顧問、株式会社移民情報機構代表取締役。2016年12月より当団体を立ち上げ、2017年9月より言葉が結ぶ人と社会「にほんごぷらっと」を開設。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

イベントカレンダー

6月
21
10:00 PM NPO法人国際教育振興協会 日本語教... @ オンライン
NPO法人国際教育振興協会 日本語教... @ オンライン
6月 21 @ 10:00 PM – 11:45 PM
当機構では、日本語教師の皆様を対象にしたオンラインセミナーやワークショップを定期的に開催し、毎回多数の日本語教師の皆様にご参加いただいておりますが、今回初めて学校を経営する幹部の皆様や教員採用・研修をご担当される人事部門の皆様を対象にしたオンラインセミナーを一般社団法人 日本アンガーマネジメント協会様のご協力を得て開催する運びとなりました。 もし、次のような課題に対して鋭意取り組んでおられるようでしたら、是非本セミナーにご参加いただきたいと考えております。 ■優秀な人材が集まる職場にしたい ■退職者を減らしたい ■社員教育の仕組みを見直したい セミナーの概要は以下のとおりでございます。 【テーマ】 組織力を高めるためのアンガーマネジメント ※アンガーマネジメントをご存知ない場合は、是非、下記URLかDIAMOND Onlineに掲載された「アンガーマネジメント”が、いま、企業の人事部に注目されているのはなぜか?」をご一読願います。 https://diamond.jp/articles/-/294795 ※アンガーマネジメントのセミナー等を受講された皆様の感想を下記URLから動画でご覧いただくこともできます。 https://www.angermanagement.co.jp/before_after 【講師】 水谷 紀子氏 【参加対象者】 日本語学校等、日本語教育機関の経営幹部の皆様 採用・研修等、人事部門の皆様 【開催日時】 2025年6月21日(土)10時~11時45分 【参加費用】 無料 ※エグゼクティブ対象 第1回オンラインセミナー開催記念により通常、10,000円(税込)の参加費用を無料とさせていただきます。 参加のお申込み方法等、詳細は添付資料または下記URLよりご確認いただきます ようお願い致します。 https://x.gd/DyIF1 本セミナーが皆様にとって有益な機会となるよう万全の準備で皆様のご参加をお待ちしております。是非、ご参加いただきますよう何卒よろしくお願い致します。
6月
28
終日 第34回小出記念 日本語教育学会 年... @ オンライン
第34回小出記念 日本語教育学会 年... @ オンライン
6月 28 終日
開催日:2025年6月28日(土) ・場所:オンライン(Zoom) ・予定(日本時間): 9:40-10:10 会員総会 10:20-10:30 開会・プログラム説明 10:30-12:20 講演   「対話を通した学習者オートノミーおよびウェルビーイングの促進」 講師:加藤聡子氏(神田外語大学 学習者オートノミー教育研究所 特任准教授) 13:20-16:50 口頭発表 16:55-17:10 総括 ・参加費:会員無料・非会員2000円(発表者以外の参加申し込み方法は5月下旬にお知らせします)
7月
5
終日 日本語ジェンダー学会 第25回年次... @ 実践女子大学(渋谷キャンパス)
日本語ジェンダー学会 第25回年次... @ 実践女子大学(渋谷キャンパス)
7月 5 終日
第25回年次大会 研究発表募集要項 2025年7月5日(土)に実践女子大学(渋谷キャンパス)にて開催される、第25回年次大会での研究発表を募集します。以下の要領でお申込みください。  発表資格: 研究代表者=当日の発表者は、応募および発表時点で当学会の会員である必要があります。会員登録は、当学会事務局で随時受け付けておりますので、応募時までに会員登録をお済ませください。 会員登録はこちら新しいウィンドウで開きますからお願いします。 なお、研究代表者以外の連名者は、会員・非会員は問いませんが、採択された場合、後日の参加申込みは連名者も含み全員にしていただきます。 発表内容: 言語(特に日本語)・言語による作品・言説・発話・言語使用状況・言語使用環境等をジェンダーの観点から論じた内容を含む未発表のもの(発表内容は、大会テーマに関わるもの or 関わらないもの、どちらでもよい) → 大会テーマ「メディア・ことば・ジェンダー」 発表言語と時間: 日本語で30分(口頭発表20分+質疑応答10分)以内  申し込み期間: 2025年3月3日(月)–  5月7日(水)24:00 (JST) 申し込み方法: 当学会のウェブサイト上の「研究発表申込み書新しいウィンドウで開きます」をダウンロードして、研究者名、発表タイトル、発表概要(1000-1500文字)などを記入してアップロードする。 → 3月3日(月)以後に、こちら新しいウィンドウで開きますにアップロードしてください。 可否通知: 審査後5月16日(金)までに研究発表担当の実行委員からご本人に結果を通知します。場合によっては、一定の条件や修正への要求が提示される場合があります。 予稿集原稿: 採択された方は、6月6日(金)24:00までに予稿集に掲載する発表要旨を日本語で執筆してください。場合によっては、修正や加筆をお願いする場合があります。執筆要項は可否通知の際にお知らせします。 ★二重投稿や剽窃などの不適切な原稿に関しては厳しく対処致しますので、研究者としての良識をもってご執筆ください。 以上.
7月
12
終日 言語科学会 第26回年次国際大会(J... @ 愛媛大学 城北キャンパス
言語科学会 第26回年次国際大会(J... @ 愛媛大学 城北キャンパス
7月 12 – 7月 13 終日
言語科学会第 26 回年次国際大会(JSLS2025)開催・研究発表募集のご案内 言語科学会 (JSLS: The Japanese Society for Language Sciences) では以下の要領で、 第 26回年次国際大会 (JSLS2025) を開催いたします。 大会日程: 2025 年 7 月 12 日(土)~ 13 日(日) 開催場所: 愛媛大学 城北キャンパス(愛媛県松山市文京町 3) 大会ウェブサイト: http://www.jslsconference.jpn.org/jsls2025/ 基調講演: Jae DiBello Takeuchi 氏 (Indiana University Bloomington)

注目の記事

  1. ロサンゼルスの英字紙編集長から「LA大火から1か月」のレポート 岩手県大船渡市の山林火災で大き…
  2. 日豪の友好の歴史を見直そう——日豪議員連盟が「穣の一粒」と「藤田サルベージ」で勉強会  …
  3. 新年を迎えて 2024年は日本語教育の大変革の年 日本語教師は新たな自己改革を 2024年…

Facebook

ページ上部へ戻る
多言語 Translate